OLYMPUS PEN FT


 
型式:ハーフサイズ・ロータリー・メタルフォーカルプレーンシャッターカメラ
レンズマウント:バヨネット式ペンマウント
シャッター:ロータリー・メタルフォーカルプレーン
シャッタースピード:1〜1/500秒、B
測光:超大型Cds/平均光量測定式/TTLナンバーシステム開放測光式
電源:H-D(MR-9)型水銀電池 1個
大きさ:127×69.5×32mm
重さ: 600g(38mmF1.8レンズ含む)
発売:1966年
発売価格:22、000円(38mF1.8レンズ付32,000円)

レンズ: F.Zuiko Auto-S 1:1.8 f=38mm

難易度:9(10段階評価)
厳重注意!!
ここでは紹介していませんが、特殊技能を要します。
安易な分解は絶対にやめてください。

一時期ハーフカメラに入れ込んだことがあったのですが、以前からロータリーシャッターの構造が複雑で、「素人修理は無理」みたいな話が何処からか聞かれたことと、値段が高かったので手を出しませんでした、ジャンクなんて出回ってなかったですしね。
その後特に気にも留めてなかったのですが、久しぶりにオークションでジャンク検索をしたところ、このカメラがヒットしました。
タイトルにはジャンクと有るものの、オーナーさんはカメラに不慣れな方らしく、動作するかどうかも不明ということでしたが、外観は綺麗だし、ジャッター幕が無いなんてことは無さそうなので落札してしまいました。

届いてまず確認したのは当然ながらシャッターが切れるか(^^ゞ

き〜切れません(爆)
巻き上げレバーもロックしたまま、レンズを外してみるとミラーアップしてます。

シャッター幕はプラプラ動きます。

この時はまだ状況がつかめてないので、頭の中は?????のオンパレード(爆)
とにかく分解することにしましたが・・・・・
トップカバーの止めネジが1本だけ巻き上げレバーの裏にあります(-_-メ)
巻き上げロック状態ですからトップカバーが外せないってことです、どういう設計なんでしょうね、想定外の故障って事?
よくあることだと思うんですけど。

少々無理をして何とか外しましたが、なにか特殊な工具でも無いと修理は苦労するのではないかと思います。
シャッタースピードダイヤル部

中央に見える歯車は露出計をシャッタースピードに応じて回転させるためのもの。
セルフタイマー

セルフタイマーレバーは中央の押しボタンが飾りネジ(右ネジ)になっているので、リングレンチで外し、内部のネジ(左ネジ)を緩めるとレバーが外れる。
なにせ動作不良であるから、底蓋を外しても何がなんだかさっぱり分からない。
電線の半田付けは酷いものだ、まあ当時の電気製品なんて何処もこんなものだけど。
とにかく動作が分からないのでミラーの動作シーケンスを観察することにした。

こちらも正しい動作が分からないので相当悩んだ(^^ゞ
写真はカメラを上から観た位置、写真上側がレンズ方向

一番上の黒いレバーがレンズの絞り動作レバー

写真中央の長穴の開いたレバーがミラーを上下させるレバーで、重なりの一番手前になる鎌状のレバーと、その下になるレバーに交互に引っかかることでミラーが上下する。

とにかくよくこの狭い中に組み込んだものです。
写真はカメラを下から見た位置、写真下がレンズ方向。

動作シーケンスはこうだ。

1、まずシャッターボタンを押すと絞り連動レバーが動作し、絞りを絞る。
2、絞り連動レバーが動作完了の位置まで来たあたりでミラーアップのロックが外れ、ミラーがアップする。
3、更に絞りレバーが動作し、シャッターユニットをスタートさせる。
4、シャッターユニットが動作完了位置まで来るとミラーダウンロックレバーが外れ、ミラーが下がる。
5、ミラーが下がる工程で絞り連動レバーのロックがはずれ、連動レバーは元の位置に戻る。

以上で一連の動作は完了する。

動作確認の結果、ロックがかからない時が有るので調整した。

さて次はシャッターユニットだが、これも正しい動作が分からないのでじっくり観察した。

そもそもチャージ用のギヤが回らない、なんでだろう・・・・?
色々観察してみるとシャッター動作が完了していないと思われる・・・なぜ?
シャッター幕がぷらぷらしているところをみるとチャージスプリングが折れたのかなと思うのだが、シャッター幕を回すと反動が出る位置があるし・・・
色々考えたが、このままでは治りそうにないのでシャッター幕部を外してチャージスプリングの確認をすることにした。

しかし、このネジが固い、ネジロック剤を塗ってるからだが、その上左ネジだった。

分解してみると思ったとおり、スプリングが折れていた。
写真の通り、比較的先端部分なので、少々ばね定数が変わるけど、折れた部分を折り曲げて使うことにした。

まあ大丈夫でしょう(^^ゞ
こちらシャッター

ロータリーシャッタの幕って鉄板の分厚いので出来てると思ってた(^^ゞ
考えてみれば1/500秒でシャッター切って一瞬で止めるんだから、そんなに重いの使う分けないよね。
とりあえず動作部分は目処がついたのでモルト交換と清掃をすることにした。

とにかく内部はモルトが多く、ぼろぼろと粉が出てくる。
ポロプリズムとファインダースクリーン
スクリーンの下にあるミラーがアップしたときに衝撃を和らげるモルト。

ここまで分解しないと綺麗にはならなかな?
ところでもうひとつ問題が。

ハーフミラーが剥がれて見難いので対策を・・・・

実はレンジファインダーの修理に使うハーフミラーのフィルムを貼ってみたのですが、レンジファインダーの場合は反射した光ではなくて透過した光がメインで、反射した光は少々ぼやけていても問題にならないのですが、このカメラのように反射光がメインとなると像の切れが悪くて実用になりませんでした。

そこで準備したのは写真左のハーフミラー
何だと思います?じつは部品取りに使ったEOS1000QDのミラーです、オートフォーカスのカメラはハーフミラーですからね、こんな事も有ろうかと仕舞い込んでいました。
オリジナルのミラーは全面がミラーになってないのですが、これは露出計が見やすいように透明部分がある為のようです、確認したところ問題なく見えるので良しとしました。
同じ寸法になるように削ります。

さあこれでOKです。
写真でミラーが青く見えるのは左側に青い板があるからです。

反射率の違いから露出に影響が出ると思われますが、まあ動けば調整も出来ますしね(^^ゞ
モルトもすべて交換してサッパリしました。
内面反射が気になるので反射防止シートを貼っておきます。


動かないものを観察しながら動くようにするのだから時間はかかったが、パズルを解くような楽しさも有り、なんとか動作するまでに修理することが出来た。
こうして苦労しながら修理したカメラを巻き上げてシャッターが切れた瞬間の感動は格別なものだ。
  
PEN FTは、カメラとしては無茶な設計といえる部分も多い、銀ピカのシャッター幕なんて、どう考えても内面反射でコントラストを落とすことは明白だ。
また、今回折れていたスプリングなどは機構的にはもう少し長いもの、ばね定数の低いものが好ましいと思うが、シャッター幕の動作機構から考えると、カメラの厚さ方向の制限から短いものになっているのだと思う、このためシャッターチャージ状態でスプリングにかかる応力が限界に近くなってる、壊れる寸前と言えるかもしれない、実際壊れているのだが(^^ゞ
一枚のシャッター幕で1/500秒を達成することにも無理がある、今時のシャッターユニットで言えばストロボシンクロスピードが1/500秒であることに匹敵する
これはCanonのフラグシップ機「EOS 1Ds Mark III」のシンクロスピードが1/250秒である事からも困難であることが伺えると思う。
今回はそのスプリングが更に短くなった事もあって1/500秒のシャッタースピードにこだわることなく、低速でのシャッター動作完了がスムーズになる程度の調整とした。
そのほか、この構造では限界と思われる部分が多く、どうしても壊れやすいと言わざるを得ない。

だが、いずれにしてもこのカメラの動作機構は実に独創的で、アイデアに満ちている、そういう面からも久しぶりに楽しませていただいた、職業柄か設計者の努力、アイデア、時にはコストとの戦いと妥協など、観ていてこんなに楽しいものは無い。

今時ハーフのフィルムカメラの実用性は?なんて野暮な話ではない、今でもまだまだ人気が衰えないのは目に見えない多くの魅力が秘められているからにほかならない。

最後に、PEN FTを使う上でこれだけは守っていただきたい、それは

巻き上げ状態(シャッターチャージ状態)で保管するな!

ということである。
これを守らないと保管しておくだけで壊れる可能性がある。

試 写



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